登山のクッカー(鍋)、底が深くて縦長タイプの「深型」と底が浅くて平たいタイプの「浅型」とどっちがええねん!?という話を考えてみました。
「深型」と「浅型」なぜ二種類ある?
登山で使用されるのクッカー(鍋)には大きく分けて二種類あります。底が深くて縦長タイプの「深型」と底が浅くて平たいタイプの「浅型」です。
なぜ「深型」と「浅型」の両方があるのか…。それはそれぞれにメリットがあるからなんです。
まず「深型」ですが、これは欧米の寸胴鍋(ポット)の発想から作られています。ビーフシチューなんかを煮込んでいるアレです。
次に「浅型」ですが、これはいわゆる日本の家庭用の鍋と同じ発想で作られています。径が大きいので具材をかき混ぜたり、取り出しやすく、文字通り「鍋料理」には最適な形です。
じゃあ登山用のクッカーはどっちがいいのでしょう!?
最近「深型」クッカーが増えている理由
一昔前はクッカーといえば「浅型」でした。でも最近は「深型」のクッカーをお店でよく見ます。
キーワードは「ソロ」、「スタッキング」、「コンパクト」です。
多くの「深型」クッカーは収納…すなわち「スタッキング」のしやすさを重視しています。
世の中に出回るほとんどの「深型」クッカーはガスカートリッジ一個とコンパクトストーブ一個が収納できるサイズになっています。なんだかカッコいいですね。
これはソロ(単独)登山者向けの仕様であると言っても過言ではありません。クッカーとストーブとガスをひとまとめにスタッキングし、荷物をコンパクトに出来るというのが「深型」クッカーの一番の特長です。
「浅型」のクッカーにガスカートリッジとストーブを入れようとすると、サイズによっては高さが足りなくてガスカートリッジが入らないこともあるので、事前に確認したほうが良いでしょう。
「深型」クッカーのデメリット
「深型」クッカーのデメリットは一言で言えば、熱効率の悪さです。
本来「ポット」と呼ばれる欧米風の寸胴鍋は径が大きく、かつ容積を増やすために縦に長くなっているものです。
ところが、登山用の「深型」クッカーはスタッキングを優先しているので、形は「ポット」ですが、サイズが小さく、径も小さいのです。径が小さいとストーブの炎がはみ出すため、熱効率がよくありません。
とは言うものの、最近は「深型」のクッカーが主流のようで、その背景には、単独登山者が増えてきているというのがあるようです。
「浅型」クッカーは時代遅れなのか?
では「浅型」は時代の主流ではないのでしょうか?それでも良いところはあります。
まず、「浅型」は調理がしやすいというのが、最大のメリットです。具材をすくいやすいですし、袋のインスタントラーメンもそのまま入れられます。
また、同じ容積の場合、「深型」と比べて、径が大きくなっているので鍋底の面積が広くなります。ですのでストーブの炎をより多く受けることになり、熱効率が良いという利点があります。
「深型」クッカーでもジェットボイルは鍋底面積を蛇腹状のパーツを用いて増やしています。ジェットボイルはスタッキングを考えつつ、径が小さいという弱点を克服しています。それくらい熱効率は山では大事です。
また「浅型」のほうが大容量の大型モデルが多いので、複数人数用であれば、「浅型」を選ぶべきです。「数名で鍋を囲んでつつく」という場面ならば「深型」はあまりにも不便です。これは議論の余地は無いと思います。
「浅型」クッカーのデメリット
「浅型」クッカーのデメリット、それは重さです。
高さが低いと言っても限度があるので、ある程度の高さを保ちつつ、径を大きくした場合、容積が増え、鍋が大きくなる傾向があります。結果、重量も増えます。
軽量化目的で最低限の高さを保ちつつ、容積を最小にしていけば、径が小さくなり、必然的にマグカップのような「深型」になります。
ですので、ソロで軽量化を極めたいならば、「浅型」は適してないのです。
また、前述の通り、ガスカートリッジをきれいにスタッキング出来ないという点もデメリットと言えるかもしれません。
でも僕は「浅型」クッカーが好きなんです。
パーティ登山では「浅型」が良さそうですが、僕はソロでも「浅型」が好きです。
理由は「浅型」のほうが汎用性が高いからです。熱効率も良く、色んな料理がしやすいのはもちろん、そのまま食器として使う場合にも食べやすいのが「浅型」のクッカーです。
「深型」は欧米の寸胴鍋、すなわち「ポット」が原型です。「ポット」は大容量を煮込むには良いですが、そこから直接口に運ぶことを想定してません。一方、「浅型」は日本の「鍋」ですので、「鍋をつつく」というように直接口に運びやすい形状なのです。これはソロ登山では有用です。
ソロクッカーで「深型」がもてはやされる理由はスタッキング性が良いことと軽量であることなので、この二つに目をつぶってしまえば鍋(食器)としての性能は「浅型」のほうが上でしょう。
前述の通り、そもそも「浅型」クッカーは大型であるべきなので、「ソロ用」の「浅型」というのが矛盾なんですよね。
なので実は「浅型」もサイズアップするにつれて多少「深型」っぽくなっていきます。
鍋底の径を大きくするのも限界があるので、浅型クッカーと呼ばれるものもサイズアップするにつれ、深さが増していき、「ポット(深型)」タイプのクッカーのようなフォルムになっているのです。
アルコールストーブの場合、どっちが良い?
ここからは少しマニアックな話になります。ガスストーブじゃなくて、アルコールストーブだったらどっちが良いのか???という問題についてです。
これは完全にソロ用の話ですね。
僕は今のところ、これも「浅型クッカー」のほうが良いんじゃないかと思っています。
でも、アルコールストーブに使われているクッカーでよく見るのは「深型」です。これには軽量化が関係しています。アルコールストーブを使うとなると「軽量化」にこだわることになります。「深型」のほうが容量が少ない小型の軽量なクッカーが多いので、軽量化にこだわったソロクッカーは自ずと深型になっているようです。
でもアルコールストーブのような微弱な炎の場合、熱効率を考えると「浅型」クッカーのような底の面積が広いもののほうが、熱が伝わりやすくて良いのは事実です。
「浅型」でも小さくてソロで使える小さいサイズのものも無いわけでは無いし、クッカーじゃなくて、「食器」として売られているものを使ってもいいわけです。深型と比べた多少重くなるかもしれませんが、小さいものを選べば、その差はたかが知れています。
僕ならば熱効率を優先します。
それに深型クッカーの容量ならば、クッカーの中に燃料、ストーブ、ゴトク等、全てスタッキングできます。
煙突効果を出すには「深型」か?
しかし!アルコールストーブの熱効率を論じるなら、風防を利用した「煙突効果」を忘れてはいけないんです。「煙突効果」によってアルコールストーブは酸素をたくさん取り込んでより効率的に燃焼します。そのためには縦に高さがある風防(ウインドスクリーン)にセットして使うのが望ましいです。縦に高さのある風防をコンパクトに収納するには「深型クッカー」がちょうど良いんです。これもアルコールストーブと「深型クッカー」が組み合わされることが多い理由のひとつだと思います。
もちろん、クッカーが「浅型」で煙突部分は縦長の構造がアルコールストーブの性能を最大限に発揮すると思います。この形状こそがTrangia (トランギア)のストームクッカーです。ストームクッカーの構造はもはや必然的なものなんです。しかし最大の問題は、デカくなるということ…。軽量コンパクトではなくなるということです。
ちなみにガスのストーブでストームクッカーの構造をしているのがPRIMUS (プリムス)のイータスパイダーですね。
てなわけで、アルコールストーブの場合、小型の浅型クッカーを採用し、ストームクッカーやイータスパイダーの小型版の形を作っていく方向で頑張るしかなさそうです。
クッカー問題は難しい…。
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