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本書は関東、新潟、関東(栃木、群馬、奥多摩、奥秩父など)の避難小屋、営業小屋の詳細についてまとめられています。避難小屋のクオリティをわかりやすく☆星で4段階評価しています。著者の髙橋さんは約40年間避難小屋泊の単独登山を行っており、その集大成の一つとも呼べる本です(別著書に『東北の避難小屋144』があります)。

山好きのみならず、山と建築好きには必見の本

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全部のページは読んでませんが、面白い本です。避難小屋泊というテント泊とも小屋泊とも違う独特の世界が好きな人にはもちろん、建築好きの人にもおすすめしたいです。

避難小屋と聞くとどうしても暗くて汚くて、よっぽどのときじゃないと利用したくない、利用すべきではないというイメージを持つ人もいるのではないでしょうか。そんな人が読めば必ずや避難小屋の見方が変わると思います。「避難小屋利用心得」みたいなものも書いてありますので、避難小屋初心者、未経験者もぜひ手に取ってほしいです。

著者が元古川機会金属の取締役だからか、少々理系的な観点で、部屋の間取り(図面)と建物構造(木造や鉄骨造かなど)も記述されています。床の材質や屋根の材質にまで触れていて、マニアックな心をくすぐります。

特に図面は見ているだけで楽しいですね。まるで自分の新居を探す際に色々な家の図面を見て「どういう生活が出来るかな~」と思いを馳せるようです。間取りと外観写真だけ見て「こりゃ出来るだけ泊まりたくないな」とか、「避難小屋でこのクオリティはすごい」とか…空想登山が捗ります(笑)。

2004年発行ですので情報としてはちょっと古いですが、だいたいは変わっていないので十分使えます。改築予定が分かっている小屋についてはそのことにも触れています。



テント泊より楽な避難小屋泊


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4月の雲取山避難小屋。ほぼ頂上にある。



僕は本来、テントを担ぐのが好きではありません。だって重いですから(笑)。疲れますよ。30リットルくらいのザックで小屋泊してご飯も出して貰ったらどんなに楽なことか…。でもお金がそれなりにかかります。山で営業小屋に泊まると、素泊まりでも5000円~7000円くらいが相場ではないでしょうか。

僕は山登りを始めたのが大学生からですので、当時は(今も)お金が無く、当然の如く無条件でテント泊からスタートしました。テントなら一人500円~1000円程度です。1000円は高いですが八ヶ岳の相場はそのくらいです。でも小屋泊に比べたら圧倒的に安い。それならテントで我慢しようというのが、僕のもともとのテント泊の考え方でした。そんな僕にとって、基本的に無料で利用できる避難小屋は魅力的なものでした。コストが抑えられ、面倒なテントの設営、撤収も無く、狭苦しい空間でぎゅうぎゅうになって寝食をすることも無く、快適な生活がそこにはあります。なにより悪天時には確実に身を守ってくれるシェルターになります。まさに“避難”小屋です。

僕は言うほど多くの避難小屋に泊まったことはありませんが、人生で最初に泊まった避難小屋は学生時代に利用した「雲取山避難小屋」でした。いままでテント泊しか知らなかった僕にとっては「こんなところに泊まっていいの?」と思うくらいに快適そのものでした。本書では「雲取山避難小屋」は☆3つ(最大4つ)の評価であり、僕の中では居心地の良かった避難小屋でも3つ(良い)の評価となっております。このことから結構厳しい評価をしていることがわかり、本書の信頼度もあがります。



まだテント泊で疲弊しているの?


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中央アルプス空木岳避難小屋(エリア外のため本書には掲載されてません)



社会人になって登山を始めた方は山小屋利用登山からスタートしていたり、日帰り登山からスタートしていたり、避難小屋を利用するという登山は未知の世界の人も多いのではないでしょうか。登山関係の雑誌の毎年の特集(特にここ数年)を見ると、「今年こそテント泊!」とか「テント泊単独行」とか、そんな特集ばかりな気がします。たしかにテント泊って、装備重量の増加や設営技術が必要になってくることから登山の脱初心者的なイメージがありますし、一種の「憧れ」なのかもしれません。あとは必ず聞くのが「プライベート空間」とか「山と自分だけの場所」みたいな話です。

でも近年はいわゆる「お一人様テント」が増加し、従来テント場がいっぱいになることのなかった山小屋でテント場が定員オーバーする事態が増加しています。一人で一つのテントだとスペース的に非常に非効率です。例えるなら、皆が一人一台タクシーに乗って道が渋滞するようなものです。一昔前はテントは複数で利用するほうがメジャーでした。今や一人用テントのほうが目立ちますが。(とはいえ冬は複数用テントの方が多いですが)タクシーにはできるだけ相乗りしたほうが道はスムーズに流れます。

話が横道にそれましたが、そんなにギチギチに混雑したテント場で「個人的な空間」を作るのは無理です。テントに防音性は一切ありませんので隣の人の話し声も、いびきオナラの音も聞こえます。しかも荷物も重くなるし、キャンプ指定地での夏山テント泊を想定しているとなると、テント本来の非常時のシェルター的な役割も薄くなっています。そう考えるとテント泊って本当はリスクを軽減するために効率が良いはずなのに、効率が悪くなっているように思えてきます。近年ずっと山雑誌が煽ってくる「テント泊信仰」ってどうなの?って思います。



避難小屋利用は山のリスク軽減スキル


山でのリスク軽減や効率化を考えた時、やはり利用できるものは利用したほうが賢いのでは?と思ってしまいます。すぐ近くに無料で使える避難小屋があるのにテント担いでテント泊をしたり、それで快適なら全く問題無いんですが、重さで体力消耗しっちゃっていたり、テント場がすごく混雑していたりしたら、本末転倒な気もします。

避難小屋泊にすれば、夏山であればツェルトのみ携行して、一日のコースタイムを伸ばしてみたりもできます。山のルートの設定の仕方も変わってきますし、行きたい山域も変わります。また、著者もまえがきで触れているように、上越、東北の山など、避難小屋利用が不可欠な縦走ルートも多数ありますので、避難小屋泊利用を積極的にすることで、テント泊では得られない、「あるものを利用して最大限の効率化」という山のスキルが上がると思っています。

しかし当然、避難小屋も他の利用者さんもいますので、仲良くマナーを守って利用しないといけませんが、テントで薄い布隔てて音は丸聞こえなのに顔が見えない不気味さにくらべれば、小屋内で顔を合わせて仲良くすごしたほうが楽しいと思います。避難小屋利用に慣れてくれば、テントがだんだん煩わしくなり、その快適さにハマります。そして色んな「避難小屋にとまってみたいなあ」と思い、避難小屋そのものに興味が沸いてくることでしょう。そういうときが本書が一番面白く感じるタイミングだと思います。これは「駅寝」の話にも似てきますね。

関連記事:駅寝(ステーションビバーク)マニュアル。

先日谷川岳に行った時も「茂倉岳避難小屋」に是非とも泊まってみたかったのですが、残念ながらまだ雪に完全埋没していました。実は避難小屋に泊まることが目的の半分くらいでしたから(笑)。

ちなみに上越の山はテント泊が基本禁止なので避難小屋が多くあり魅力的です。小屋の種類も本格的な小屋からカマボコ屋根のシェルターまであり、見てるだけでも楽しいです。「これからも山の楽しみ方が尽きないなあ」と思わせてくれる一冊です。