登山やキャンプで使うシングルバーナー(ガスストーブ)が、標高が高い場所や気温の低い場所で点火しにくいとき、試してほしい4つのこと。
登山でストーブ(シングルバーナー)を点火しようとしたとき、「点火しない!」というトラブルを経験した人は多いのではないだろうか。オートイグナイター(自動点火装置)だなんていう大層な名前がついているわりに、点火しない!不便だ!と思っている人もいるだろう。
実はストーブに付属する点火装置は破損しやすいものでもあるので、ストーブを使う人はこれを念頭に入れておきたい。だから登山においては点火のバックアップとしてライター(電子式ではなくフリント式)を持っていく必要がある。
それに「点火できない」と言えども原因のメカニズムを知れば対処ができるというもの。「どうせ点かない」とすぐに諦めないでほしい。原因を知っていればちょっとの工夫で点くこともある。
点火しない原因は
いまどきセラミックで完全に覆われてるのはEPIくらいだが、このセラミックは陶器のようなものなので衝撃で割れやすい。
一見してクラックが目視できなくても微細なヒビが入っていて漏電するケースも多い。暗いところでイグナイターのスイッチを押してみてどこからか漏電しているかチェックしてほしい。
それでも破損した場合はどうしようもないのでライターで点火する。その場合はフリント式ライターを携行すること。
寒いと点火できないケースがある。これは寒さでイグナイターが機能しないわけではない。その証拠に、僕はイグナイターのみを冷凍庫に入れて冷やしたことがあるが、キンキンに冷えても火花は飛ぶ。
ではイグナイターから火花が飛んでもなぜ点火出来ないのだろうか?
犯人はガスだ。単純に寒いとガスは気化しにくくなり、引火しにくくなる。
一般的なアウトドアガスカートリッジ(OD缶)にはブタン、イソブタン、プロパンが混合されている。いわゆるLPガスというやつ。
イソブタンは-11℃くらい、プロパンは-40℃くらいまでは気化するが、ブタンは0℃を下回ると気化しない。つまり、気温が下がるとガス缶の内圧が下がり、缶からガスが気体として噴出しなくなる。だから点火できなくなる。
プロパンが入っているガスカートリッジ、つまり寒さに強いガスを選べばいい。
一般的にCB缶は缶の構造上ブタンしか入っていないが、OD缶であればプロパンが混ざられているものがほとんどなのでこちらを使用すること。寒冷地であればあるほど、寒冷地用といってプロパンの比率が高いガスカートリッジがあるのでそちらを使おう。
ちなみにこの問題を軽減するのが「マイクロレギュレーター」搭載のモデル。ガスは気化し続けると気化熱といって空気中の熱を奪う。そのためカートリッジはどんどん冷え続けてその結果ガスが気化しにくくなり、火力が低下する(ドロップダウン現象)。「マイクロレギュレーター」は気化しにくくなってガスの出(圧力)が低下してくると、ガス量を一定に保つために弁が開く構造になっており、火力低下を防ぐ。
ちなみに同じ理由でライターも点火しにくくなる。なぜならライターの燃料も液化ブタンだからである。でも後述する理由でフリント式ライターなら点火確率が上がるのだ。
標高が高いと点火できないケース。これもイグナイターが悪いわけではない。ガスと空気の問題だ。LPガスが燃焼するには、ガスと空気が混合されて、その混合気体に点火しなくてはならない。標高が高いと空気が薄いため、適正な混合比になりにくく、イグナイターでは点火しにくくなる。
でもイグナイターでは点火しにくくなるが、ライターの直火を近づければ点火できるケースがほとんどだ。なぜなのか?
岩谷産業曰く「酸素濃度が薄くなるため、ガスの噴出速度と電極からの点火のタイミングにズレが生じ自動点火しにくくなります」とある。この文章は参考にはなりそうだが、いまいちしっくりこない。まず、標高が高くなっても酸素濃度(%)は平地と同じだ。
高地で平地と変わるのは体積あたりの酸素の量=酸素分圧である。これにより、周囲の酸素の量は減るため、適正な比率の混合ができなくなると推測できる。
そこに電極からの点火のタイミングがズレる…とのことだが、僕は、うまくガスと酸素が混ざっていない気体のなかに、一筋のスパークだけでは点火に至らないと解釈している。
イグナイターの電極からのスパークを思い出してみよう。スイッチを押すと一瞬だけ一筋の青白いスパークがバーナーヘッドに飛ぶ。本来なら正しい比率でにガスと酸素が混ざった気体にスパークを当てて点火させる。しかし、一筋ゆえ、混合不良の気体では、「混ざった部分に」当たる確率が低くなる。
高地でもライターの炎では点火可能な理由は、炎を直接気体に当ててれば、広範囲に渡って点火のチャンスをつくることができるからである。広範囲に当てることで混合不良の気体でも、「混ざった部分」に当たる確率が高くなる。
フリント式(火打石)ライターが山で推奨されているのもこれが理由で、フリント式は電子式と比べて火花を複数飛ばせるため点火確率が上がるのだ。また、ライターの燃料は低温で気化しにくいブタンであるが、スパークの多いフリント式なら点火確率が上がるというわけだ。これまでライターはフリント式としつこく言われてきたのはこういう理由である。
ようするに結論は、高地では複数の火花のほうが点火しやすいということで、フリント式ライターやマッチを使うべしということだ。
実は平地でも高地でも言えることなのだが、イグナイターを使って点火しようとすると、先ほどの点火のタイミングのズレのようなことが起こることはたまにある。
例えばガスの噴出量を増やしすぎると逆に点火しにくくなる場合など。
ガスを沢山出せば点火しやすいと思うかもしれないがそうでもない。ガスばかり勢いよく出ると逆に酸素と適切に混ざらなったりして、点火のタイミングにズレが生じる。
それで点かなかったら一度ツマミを閉じてまたゆっくり開放しながらスパークを飛ばすという動作を繰り返す。
このとき開放速度はその都度変えたほうがいいかもしれない。ゆっくり過ぎたら少し開放速度を上げたほうがいいかもしれないし、逆に早過ぎたらもっとじっくり開放したほうがいいかもしれない。点火のタイミングが合う位置を見極めよう。
個人的にはこの「点火のズレ」が生じやすい形状のモデルとそうでないものがあるような気がする…。※個人の感想です。
他に細かい原因としては風の可能性もあるので、その辺も気を付けるに越したことはない。
「イグナイターで点火出来ない」という場面に直面した人はすぐに諦めずに上記をチャレンジしてみてほしい。火花さえ飛べば(壊れていなければ)、イグナイターは意外と使えるのだ。もちろんそれでもイグナイター自体が壊れる可能性はあるので、バックアップのフリント式ライターはお忘れなく…。
おわり
2023年7月22日
2023年10月17日加筆修正
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点火装置(イグナイター)で点火出来ない…!
登山でストーブ(シングルバーナー)を点火しようとしたとき、「点火しない!」というトラブルを経験した人は多いのではないだろうか。オートイグナイター(自動点火装置)だなんていう大層な名前がついているわりに、点火しない!不便だ!と思っている人もいるだろう。
実はストーブに付属する点火装置は破損しやすいものでもあるので、ストーブを使う人はこれを念頭に入れておきたい。だから登山においては点火のバックアップとしてライター(電子式ではなくフリント式)を持っていく必要がある。
でもイグナイターを使いたい
それに「点火できない」と言えども原因のメカニズムを知れば対処ができるというもの。「どうせ点かない」とすぐに諦めないでほしい。原因を知っていればちょっとの工夫で点くこともある。
点火しない原因は
- イグナイターが破損している場合
- 寒さ
- 標高が高い
- 操作の問題
などに大別される
これについては岩谷産業のウェブサイトが詳しい。
イグナイターの針金の様な電極を覆っている白い部分が割れるとそこから漏電し、的確にバーナーヘッドに火花が飛ばないので点火しない。これについては岩谷産業のウェブサイトが詳しい。
①イグナイターが破損が原因の場合
いまどきセラミックで完全に覆われてるのはEPIくらいだが、このセラミックは陶器のようなものなので衝撃で割れやすい。
一見してクラックが目視できなくても微細なヒビが入っていて漏電するケースも多い。暗いところでイグナイターのスイッチを押してみてどこからか漏電しているかチェックしてほしい。
イグナイターが破損している場合の対策
SOTOはイグナイター配線を本体内部にすることで改善し、プリムスは金属でセラミックをカバーするなどして改善しているため、破損しにくいモデルを選ぶといい。それでも破損した場合はどうしようもないのでライターで点火する。その場合はフリント式ライターを携行すること。
②寒さが原因の場合
寒いと点火できないケースがある。これは寒さでイグナイターが機能しないわけではない。その証拠に、僕はイグナイターのみを冷凍庫に入れて冷やしたことがあるが、キンキンに冷えても火花は飛ぶ。
ではイグナイターから火花が飛んでもなぜ点火出来ないのだろうか?
犯人はガスだ。単純に寒いとガスは気化しにくくなり、引火しにくくなる。
一般的なアウトドアガスカートリッジ(OD缶)にはブタン、イソブタン、プロパンが混合されている。いわゆるLPガスというやつ。
イソブタンは-11℃くらい、プロパンは-40℃くらいまでは気化するが、ブタンは0℃を下回ると気化しない。つまり、気温が下がるとガス缶の内圧が下がり、缶からガスが気体として噴出しなくなる。だから点火できなくなる。
寒い場合の対策
プロパンが入っているガスカートリッジ、つまり寒さに強いガスを選べばいい。
一般的にCB缶は缶の構造上ブタンしか入っていないが、OD缶であればプロパンが混ざられているものがほとんどなのでこちらを使用すること。寒冷地であればあるほど、寒冷地用といってプロパンの比率が高いガスカートリッジがあるのでそちらを使おう。
ちなみにこの問題を軽減するのが「マイクロレギュレーター」搭載のモデル。ガスは気化し続けると気化熱といって空気中の熱を奪う。そのためカートリッジはどんどん冷え続けてその結果ガスが気化しにくくなり、火力が低下する(ドロップダウン現象)。「マイクロレギュレーター」は気化しにくくなってガスの出(圧力)が低下してくると、ガス量を一定に保つために弁が開く構造になっており、火力低下を防ぐ。
ちなみに同じ理由でライターも点火しにくくなる。なぜならライターの燃料も液化ブタンだからである。でも後述する理由でフリント式ライターなら点火確率が上がるのだ。
③標高が高いことが原因の場合
標高が高いと点火できないケース。これもイグナイターが悪いわけではない。ガスと空気の問題だ。LPガスが燃焼するには、ガスと空気が混合されて、その混合気体に点火しなくてはならない。標高が高いと空気が薄いため、適正な混合比になりにくく、イグナイターでは点火しにくくなる。
でもイグナイターでは点火しにくくなるが、ライターの直火を近づければ点火できるケースがほとんどだ。なぜなのか?
岩谷産業曰く「酸素濃度が薄くなるため、ガスの噴出速度と電極からの点火のタイミングにズレが生じ自動点火しにくくなります」とある。この文章は参考にはなりそうだが、いまいちしっくりこない。まず、標高が高くなっても酸素濃度(%)は平地と同じだ。
標高が原因の場合の対策
高地で平地と変わるのは体積あたりの酸素の量=酸素分圧である。これにより、周囲の酸素の量は減るため、適正な比率の混合ができなくなると推測できる。
そこに電極からの点火のタイミングがズレる…とのことだが、僕は、うまくガスと酸素が混ざっていない気体のなかに、一筋のスパークだけでは点火に至らないと解釈している。
イグナイターの電極からのスパークを思い出してみよう。スイッチを押すと一瞬だけ一筋の青白いスパークがバーナーヘッドに飛ぶ。本来なら正しい比率でにガスと酸素が混ざった気体にスパークを当てて点火させる。しかし、一筋ゆえ、混合不良の気体では、「混ざった部分に」当たる確率が低くなる。
高地でもライターの炎では点火可能な理由は、炎を直接気体に当ててれば、広範囲に渡って点火のチャンスをつくることができるからである。広範囲に当てることで混合不良の気体でも、「混ざった部分」に当たる確率が高くなる。
フリント式(火打石)ライターが山で推奨されているのもこれが理由で、フリント式は電子式と比べて火花を複数飛ばせるため点火確率が上がるのだ。また、ライターの燃料は低温で気化しにくいブタンであるが、スパークの多いフリント式なら点火確率が上がるというわけだ。これまでライターはフリント式としつこく言われてきたのはこういう理由である。
ようするに結論は、高地では複数の火花のほうが点火しやすいということで、フリント式ライターやマッチを使うべしということだ。
④操作の問題が原因の場合
実は平地でも高地でも言えることなのだが、イグナイターを使って点火しようとすると、先ほどの点火のタイミングのズレのようなことが起こることはたまにある。
例えばガスの噴出量を増やしすぎると逆に点火しにくくなる場合など。
ガスを沢山出せば点火しやすいと思うかもしれないがそうでもない。ガスばかり勢いよく出ると逆に酸素と適切に混ざらなったりして、点火のタイミングにズレが生じる。
操作が原因の場合の対策
特に高所では混ざりにくいのでツマミはゆっくりと開放しながら何発かスイッチを押してスパークを飛ばす。それで点かなかったら一度ツマミを閉じてまたゆっくり開放しながらスパークを飛ばすという動作を繰り返す。
このとき開放速度はその都度変えたほうがいいかもしれない。ゆっくり過ぎたら少し開放速度を上げたほうがいいかもしれないし、逆に早過ぎたらもっとじっくり開放したほうがいいかもしれない。点火のタイミングが合う位置を見極めよう。
個人的にはこの「点火のズレ」が生じやすい形状のモデルとそうでないものがあるような気がする…。※個人の感想です。
結論: イグナイターでうまく点火する方法まとめ
気温(寒さ)と、標高による酸素分圧の低下、そしてガスと火花のズレ(タイミング)を理解したうえで、点火を試みればイグナイターでも点火できる可能性は高くなる。ようするに慣れである。他に細かい原因としては風の可能性もあるので、その辺も気を付けるに越したことはない。
- 寒冷地については、プロパン含有率が多い寒冷地仕様のガスを使用すること。
- 標高が高いところについても、プロパンが十分に含有されているものにすること。
- イグナイターの点火タイミングを見極めること
- ツマミを開けたり閉めたりして、ガスの噴出速度を変えつつ、何度も点火スイッチを押して点火タイミングを捉えること。
「イグナイターで点火出来ない」という場面に直面した人はすぐに諦めずに上記をチャレンジしてみてほしい。火花さえ飛べば(壊れていなければ)、イグナイターは意外と使えるのだ。もちろんそれでもイグナイター自体が壊れる可能性はあるので、バックアップのフリント式ライターはお忘れなく…。
おわり
2023年7月22日
2023年10月17日加筆修正
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