登山キャンプ用シングルバーナーのイグナイター(圧電着火装置)はなぜ標高が高い場所や気温の低い場所で点火しにくくなるのか、原因と対処法を解説。

登山でストーブ(シングルバーナー)を点火しようとしたとき、「点火しない!」というトラブルを経験した人は多いのではないだろうか。オートイグナイター(自動点火装置)だなんていう大層な名前がついているわりに、点火しない!不便だ!と思っている人もいるだろう。
たしかにストーブに付属する点火装置は破損しやすいオマケみたいなものもある。メーカーはそこをもっとアピールしておくべきだ。「自動点火装置」なんていう名前もよくない。「点火装置(仮)」くらい控え目にしておくべきだ。ということで、登山においては点火のバックアップとしてライターを持っていくことが常識である。
それに「点火できない」と言えども原因のメカニズムを知れば対処ができるというもの。「どうせ点かない」とすぐに諦めないでほしい。原因を知っていればちょっとの工夫で点くこともある。
そこで声を大にして言いたいのは、イグナイターの性能が直接の原因で点火できなくなることはないということだ。もちろん、セラミックが割れているなど、イグナイターが破損している場合は除く。
これについては岩谷産業のウェブサイトが詳しい。
イグナイターの針金の様な電極を煽っている白い部分が割れるとそこから漏電し、的確にバーナーヘッドに火花が飛ばないので点火しない。
いまどきセラミックで完全に覆われてるのはEPIくらいのような気がするが、このセラミックは陶器のようなものなので衝撃で割れやすい。
一見してクラックが目視できなくても微細なヒビが入っていて漏電するケースも多い。暗いところでイグナイターのスイッチを押してみてどこからか漏電しているかチェックしてほしい。
この弱点についてはSOTOはイグナイター配線を本体内部にすることで改善し、プリマスは金属でセラミックをカバーするなどして改善している。

実際、寒いと点火できないケースがある。これは寒さでイグナイターが機能しないわけではない。その証拠に、僕はイグナイターのみを冷凍庫に入れて冷やしたことがあるが、キンキンに冷えても火花は飛んだ。
そもそも圧電点火装置は圧力をかけると電圧が生じるピエゾ効果という現象を利用しており、その現象に温度は関係ないのではないか?と思っている(曖昧です)

寒いとき、明確な犯人はガスだ。単純に寒いとガスは気化しにくくなり、引火しにくくなる。
一般的なアウトドアガスカートリッジ(OD缶)にはブタン、イソブタン、プロパンが混合されている。いわゆるLPガスというやつ。
イソブタンは-11℃くらい、プロパンは-40℃くらいまでは気化するが、ブタンは0℃を下回ると気化しない。つまり、気温が下がるとガス缶の内圧が下がり、缶からガスが気体として噴出しなくなる。だから点火できなくなる。それだけである。ただ、プロパンも混合されているので、その分は気化する。
ちなみにこの問題を軽減するのが「マイクロレギュレーター」搭載のモデル。

標高が高いと点火できないケース。これもイグナイターが悪いわけではない。ガスと空気の問題だ。LPガスが燃焼するには、ガスと空気が混合されて、その混合気体に点火しなくてはならない。標高が高いと空気が薄いため、適正な混合比になりにくく、イグナイターでは点火しにくくなる。
でもイグナイターでは点火しにくくなるが、ライターの直火を近づければ点火できるケースがほとんどだ。なぜなのか?
岩谷産業曰く「酸素濃度が薄くなるため、ガスの噴出速度と電極からの点火のタイミングにズレが生じ自動点火しにくくなります」とある。この文章は参考にはなりそうだが、いまいちしっくりこない。まず、標高が高くなっても酸素濃度(%)は平地と同じだ。

高地で平地と変わるのは体積あたりの酸素の量=酸素分圧である。これにより、周囲の酸素の量は減るため、適正な比率の混合ができなくなると推測できる。
そこに電極からの点火のタイミングがズレる…とのことだが、僕は、うまくガスと酸素が混ざっていない気体のなかに、一筋のスパークだけでは点火に至らないと解釈している。
イグナイターの電極からのスパークを思い出してみよう。スイッチを押すと一瞬だけ一筋の青白いスパークがバーナーヘッドに飛ぶ。本来なら正しい比率でにガスと酸素が混ざった気体にスパークを当てて点火させる。しかし、一筋ゆえ、混合不良の気体では、「混ざった部分に」当たる確率が低くなる。
高地でもライターの炎では点火可能な理由は、炎を直接気体に当ててれば、広範囲に渡って点火のチャンスをつくることができるからである。広範囲に当てることで混合不良の気体でも、「混ざった部分」に当たる確率が高くなる。ライターのフリント(火打石)やファイヤースターターも火花を複数飛ばせるため同様に点火確率が上がる。だからライターで点火する場合もフリント式(電子式でないもの)でないとライターそのものが点火しないので、バックアップには電子式(圧電着火)ライターは避けよう。
ようするに高地では単発火花より複数火花のほうが点火しやすいということだ。

これは平地でも言えることなのだが、ガスの噴出量を増やしすぎると逆に点火しにくくなる場合がある。
ガスを沢山出せば点火しやすいと思うかもしれないがそうでもない。ガスばかり勢いよく出ると逆に酸素と適切に混ざらなったり、混合気体の勢いが強過ぎて一筋のスパークだと気体に当てられなくなってしまうことがある。つまり点火のタイミングにズレが生じる。
特に高所では混ざりにくいのでツマミはゆっくりと開放しながら何発かスイッチを押してスパークを飛ばす。それで点かなかったら一度ツマミを閉じてまたゆっくり開放しながらスパークを飛ばすという動作を繰り返す。このとき開放速度はその都度変えたほうがいいかもしれない。ゆっくり過ぎたら少し開放速度を上げたほうがいいかもしれないし、逆に早過ぎたらもっとじっくり開放したほうがいいかもしれない。点火のタイミングが合う位置を見極めよう。
他に細かい原因としては風の可能性もあるので、その辺も気を付けるに越したことはない。
「イグナイターで点火なんて出来ない」と思っている人は今一度チャレンジしてみてほしい。火花さえ飛べば(ぶっ壊れていなければ)、イグナイターは使えるのだ。もちろんそれでもイグナイター自体が壊れる可能性はあるので、バックアップのフリント式ライターはお忘れなく…。
おわり
2023年7月22日
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点火装置(イグナイター)は役立たずなのか?

登山でストーブ(シングルバーナー)を点火しようとしたとき、「点火しない!」というトラブルを経験した人は多いのではないだろうか。オートイグナイター(自動点火装置)だなんていう大層な名前がついているわりに、点火しない!不便だ!と思っている人もいるだろう。
たしかにストーブに付属する点火装置は破損しやすいオマケみたいなものもある。メーカーはそこをもっとアピールしておくべきだ。「自動点火装置」なんていう名前もよくない。「点火装置(仮)」くらい控え目にしておくべきだ。ということで、登山においては点火のバックアップとしてライターを持っていくことが常識である。
でもイグナイターを使いたい
それに「点火できない」と言えども原因のメカニズムを知れば対処ができるというもの。「どうせ点かない」とすぐに諦めないでほしい。原因を知っていればちょっとの工夫で点くこともある。
そこで声を大にして言いたいのは、イグナイターの性能が直接の原因で点火できなくなることはないということだ。もちろん、セラミックが割れているなど、イグナイターが破損している場合は除く。
これについては岩谷産業のウェブサイトが詳しい。
イグナイターが破損している場合
いまどきセラミックで完全に覆われてるのはEPIくらいのような気がするが、このセラミックは陶器のようなものなので衝撃で割れやすい。
一見してクラックが目視できなくても微細なヒビが入っていて漏電するケースも多い。暗いところでイグナイターのスイッチを押してみてどこからか漏電しているかチェックしてほしい。
この弱点についてはSOTOはイグナイター配線を本体内部にすることで改善し、プリマスは金属でセラミックをカバーするなどして改善している。
寒くて点火しない場合

実際、寒いと点火できないケースがある。これは寒さでイグナイターが機能しないわけではない。その証拠に、僕はイグナイターのみを冷凍庫に入れて冷やしたことがあるが、キンキンに冷えても火花は飛んだ。
そもそも圧電点火装置は圧力をかけると電圧が生じるピエゾ効果という現象を利用しており、その現象に温度は関係ないのではないか?と思っている(曖昧です)
寒さで点火しない原因はLPガスの特性

寒いとき、明確な犯人はガスだ。単純に寒いとガスは気化しにくくなり、引火しにくくなる。
一般的なアウトドアガスカートリッジ(OD缶)にはブタン、イソブタン、プロパンが混合されている。いわゆるLPガスというやつ。
イソブタンは-11℃くらい、プロパンは-40℃くらいまでは気化するが、ブタンは0℃を下回ると気化しない。つまり、気温が下がるとガス缶の内圧が下がり、缶からガスが気体として噴出しなくなる。だから点火できなくなる。それだけである。ただ、プロパンも混合されているので、その分は気化する。
ちなみにこの問題を軽減するのが「マイクロレギュレーター」搭載のモデル。
ちなみに、気温が0℃以上でもガスは周囲の熱を奪いながら気化するので(気化熱)、缶の温度が下がると気化しにくくなる。
標高が高い場合は?

標高が高いと点火できないケース。これもイグナイターが悪いわけではない。ガスと空気の問題だ。LPガスが燃焼するには、ガスと空気が混合されて、その混合気体に点火しなくてはならない。標高が高いと空気が薄いため、適正な混合比になりにくく、イグナイターでは点火しにくくなる。
でもイグナイターでは点火しにくくなるが、ライターの直火を近づければ点火できるケースがほとんどだ。なぜなのか?
岩谷産業曰く「酸素濃度が薄くなるため、ガスの噴出速度と電極からの点火のタイミングにズレが生じ自動点火しにくくなります」とある。この文章は参考にはなりそうだが、いまいちしっくりこない。まず、標高が高くなっても酸素濃度(%)は平地と同じだ。
高地で点火しにくい理由、ライターで点火できる理由

高地で平地と変わるのは体積あたりの酸素の量=酸素分圧である。これにより、周囲の酸素の量は減るため、適正な比率の混合ができなくなると推測できる。
そこに電極からの点火のタイミングがズレる…とのことだが、僕は、うまくガスと酸素が混ざっていない気体のなかに、一筋のスパークだけでは点火に至らないと解釈している。
イグナイターの電極からのスパークを思い出してみよう。スイッチを押すと一瞬だけ一筋の青白いスパークがバーナーヘッドに飛ぶ。本来なら正しい比率でにガスと酸素が混ざった気体にスパークを当てて点火させる。しかし、一筋ゆえ、混合不良の気体では、「混ざった部分に」当たる確率が低くなる。
高地でもライターの炎では点火可能な理由は、炎を直接気体に当ててれば、広範囲に渡って点火のチャンスをつくることができるからである。広範囲に当てることで混合不良の気体でも、「混ざった部分」に当たる確率が高くなる。ライターのフリント(火打石)やファイヤースターターも火花を複数飛ばせるため同様に点火確率が上がる。だからライターで点火する場合もフリント式(電子式でないもの)でないとライターそのものが点火しないので、バックアップには電子式(圧電着火)ライターは避けよう。
ようするに高地では単発火花より複数火花のほうが点火しやすいということだ。
ガスのツマミを開放し過ぎで点火しない場合

これは平地でも言えることなのだが、ガスの噴出量を増やしすぎると逆に点火しにくくなる場合がある。
ガスを沢山出せば点火しやすいと思うかもしれないがそうでもない。ガスばかり勢いよく出ると逆に酸素と適切に混ざらなったり、混合気体の勢いが強過ぎて一筋のスパークだと気体に当てられなくなってしまうことがある。つまり点火のタイミングにズレが生じる。
特に高所では混ざりにくいのでツマミはゆっくりと開放しながら何発かスイッチを押してスパークを飛ばす。それで点かなかったら一度ツマミを閉じてまたゆっくり開放しながらスパークを飛ばすという動作を繰り返す。このとき開放速度はその都度変えたほうがいいかもしれない。ゆっくり過ぎたら少し開放速度を上げたほうがいいかもしれないし、逆に早過ぎたらもっとじっくり開放したほうがいいかもしれない。点火のタイミングが合う位置を見極めよう。
高地や寒冷地での点火方法
気温(寒さ)と、標高による酸素分圧の低下、そしてガスの噴出勢いを理解したうえで、点火を試みればイグナイターでも点火できる可能性は高くなるはず。他に細かい原因としては風の可能性もあるので、その辺も気を付けるに越したことはない。
- 寒冷地については、プロパン含有率が多い寒冷地仕様のガスを使用すること。
- 標高が高いところについても、プロパンが十分に含有されているものにすること。
- イグナイターの点火は粘り強くやること。
- ツマミを開けたり閉めたりして、ガスの噴出速度を変えつつ、何度も点火スイッチを押してチャレンジしよう。一筋のスパークでも数打ちゃ当たる。
おわりに
岩谷産業のウェブを参考にしつつ、僕の業務経験に基づいて書いたので間違っている部分もあるかもしれないが、概ね実践の価値ありだと思っている。「イグナイターで点火なんて出来ない」と思っている人は今一度チャレンジしてみてほしい。火花さえ飛べば(ぶっ壊れていなければ)、イグナイターは使えるのだ。もちろんそれでもイグナイター自体が壊れる可能性はあるので、バックアップのフリント式ライターはお忘れなく…。
おわり
2023年7月22日
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