ドキュメント道迷いシリーズ第二弾。南アルプス甲斐駒ヶ岳でやらかした、唖然とするルートミス経験。



甲斐駒から鋸岳への稜線にて

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2012年10月、甲斐駒ヶ岳から鋸岳を縦走する計画だったときの話である。

その年の1年前に槍~西穂の縦走を完遂し、その年の夏には剱岳北方稜線をクリアした僕は、バリエーション縦走に自信をつけてきており、次は南アルプスだということで、今回のルートを選定した。今考えれば調子に乗っていたとしか言いようがないが…(苦笑)。

甲斐駒ヶ岳から鋸岳の稜線を経て戸台(長野県伊那側)に至る道は、山と渓谷地図ではオール破線ルートとなっており、岩場も多いので的確なルートファインディングが出来ないと窮地に陥る可能性のあるルートだ。

メンバーはJJと僕の二人。黒戸尾根から入山し、七丈小屋でテントを張った。ここまではもちろん順調で、何も問題ない登山だった。

翌日、天気は雨、天候回復のため、出発時間を遅らせて午前5時半過ぎに七丈小屋を出た。午前7時過ぎに甲斐駒山頂に着いたが、ガスで展望は全くない状況。そして、鋸岳方面の稜線に進路を取る。午前9時過ぎに六合目石室に到着。鋸岳を目指すパーティはここをキャンプ地とする場合も多い。事件はここで起こる。



白昼夢を見たかのような結末

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画像は地図アプリ「ジオグラフィカ」より。僕らは甲斐駒から北西の稜線を進んでいた。

この六合目石室、稜線からやや下り、灌木帯を回り込むように歩いて出現した。濃厚なガスに包まれていたので、接近しないと目視では小屋の存在は確認できない。小屋と言っても東屋のような感じで周囲は岩に囲まれている。

小屋まで行ったは良いが、ここで泊まるつもりは無いので先に進みたかったが、鋸岳への道が不明瞭だった(と、そのときは感じた)。実際、翌年に再訪したときは難なく道を見つけることが出来たのだが…。どうにもこうにも濃いガスの中で、身体の方向感覚というものが失われてきていたようだった。

ようやく道を見つけて進む、なかなか鞍部への下りにならないなーと思っていたら、大勢の人の声がガスの中から聞こえ始めた。「こんなバリエーション縦走路に随分と大勢のパーティがいるようだ…」なんて思って進むと…。

なんと甲斐駒ヶ岳の山頂に出たのだ。

何を言っているかわからないかもしれないが、そのとき僕らも何が起きたのか一瞬わからなかったが…。しかし事実は明快で、単に逆走していただけだった…。思わず笑いさえ込み上げてきた。

これを読んでいる読者は、「なんてバカらしい、こんなの普通あり得ないだろう」と思うかもしれない。しかしやってしまったのだ。二人もいながら、しかも2時間もかけて戻っていたにもかかわらず、甲斐駒ヶ岳山頂に着くまで逆走していることに気付かなかったのだ。

山を始めて間もないというわけでもなく、一応、そのとき僕は登山歴は7年目、ひと月に4~8日は山に入っており、それなりに登山には慣れているつもり…だった…。



なぜこのような事態が起こったのか?

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こういうことを平気でやらかした。

山頂に着くまで気付かなかったと言ったが、正確に言うと、全く異変を感じなかったわけではなかった。

正しく進んでいれば「三つ頭」という小ピークに着くはずだった。しかし、いつまでたっても登りが続いているし、高度計の標高は随分と上がり続けていた。明らかに長い登り調子に異変を感じていた。

さすがに「おかしい」と思い、何度かスントのデジタルコンパスを起動するとどうやら北(行くべき方向)を指している(ように見えた)。

ガスは濃く、十数メートルの景色さえ見えず、目視では一切方向を確認できない。

「標高が高いのはきっと気圧が下がっているからだ」、「登りばかりのようだけど、登りは長く感じるものだからよくあることだ」と二人で納得して登るしかなかった。

今考えれば異常であり、何か山の気に当てられていたというか、磁場が狂っていたというか、狐や狸に化かされてるような状況だった。

甲斐駒山頂に戻ってしまった我々は、恐ろしくなって北沢峠に降りて山行を終えた。



やはり原因は自分に都合のよい解釈

六甲山の道迷いもそうだったが、いつだって遭難事は「自分に都合の良い解釈」から生まれる。

今回は方向をコンパスできちんと確認しなかったことが逆走の原因である。

デジタルのコンパスは面をかなり水平にした上で、時間ある程度置かないと正確には出てこない。日頃から反応と精度を確かめることだと思う。このときはピッと一瞬押して、自分の都合の良いように解釈してしまっていた。

人間そうなってしまうと思い込みが止まらなくなるもので、地形、標高、所要時間の異常も気にならなくなってしまう。他の異常についても全てバイアスがかかり、都合良く解釈しようと脳が動いてしまう。

このとき、横着せずにアナログのコンパスを出して地形図に照らし合わせれば何か違ったかもしれない。正直僕はこの一件から、デジタルコンパスは全面的には信用しないことにした。ガスに巻かれているときのようなシビアな状況では二人で方向確認するなどして、もっと慎重になるべきだったのだ。

だが今では、このときは結果的に鋸岳に行けなくて良かったと思っている。こんな危うい人間達が、ガスのなか無事に通過できるようなところではないからだ。「お前らが来るような場所ではない」という山の神様の計らいのような気もしたりする。

とまあ、これまた「都合良く解釈」したりも出来るが、所詮は結果論であり、本当に今までよく生きてこれたと思った体験だった。

ルートファインディング、読図の大事さ。往来の多い登山道を平和に歩いていたらなかなかその大事さは忘れかけてしまうが、そんなときはこの事件を思い出すようにしている。



おわり
2019年7月28日

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