ここ15年ほどで若者の登山者が増えたのは間違いない。間違いないが、登山は中高年のものから若者のものへ取って代わったのだろうか?それらを考察してみる。長文注意。



ヤマケイオンラインは高齢化しているのか

僕は若者登山者なのか?と問われたら、32歳の僕は「はい」と答えるにはちょっと躊躇してしまう。

でもここで言う若者とは20歳から35歳くらいを定義したい。本当は40歳くらいまでも入れてもいいかもしれない。まあ今回のトピックス自体、統計的な話ではなく、僕の主観によるところが大きいのでその辺はあやふやにしておく。

先日、ヤマケイオンラインのこんなアンケートをTwitterで見かけた。

アンケート内容はサラリと読んだ程度だが、アンケートに答えた年齢層については、なるほど面白いなと思い、こんなツイートをした。
もちろん冗談半分でヤマケイオンラインユーザー層を揶揄したものではあるが、半分は結構本当なのではないか?とも思っている。

冗談を理解してもらえたか、そうでないかは別として、結構反響があったので、登山者の年齢層の実態についてブログに書いてみることにした。



YAMAPユーザーは若い?

今言ったヤマケイオンラインのユーザーの年齢層だが、皆さんが思う通り、僕も高めだと思っている。だからこのような結果になったのだろう。あと、メルマガなどに登録してアンケートに律儀に答えるのも、年齢層が高い人が行いそうである。若者の周りは情報が氾濫し過ぎてて、メルマガ登録しても読まないか、そもそも登録しない人も多いのではないだろうか。

また、YAMAPやヤマレコでアンケートをやれば違う結果になったのでは?という意見もあり、僕も全くそう思う。ヤマレコは全年齢幅広く使っているイメージだが、YAMAPはここ数年で急成長している。地図アプリがベースだが今やSNS機能も備えた山のポータルサイトとなっている。

そもそも、これらのサイトはそれぞれ利用者のターゲット年齢層が違うように思う。ヤマケイオンラインは歴史ある登山系出版社、山と溪谷社が母体となって運営しているので、その読者層がメインターゲットになるだろう。昔からある雑誌が母体であれば、読者もベテラン勢が増えてくるのも頷ける。ヤマレコやYAMAPは紙媒体ではなく、アプリやSNSと言った比較的若い層がよく使う媒体をベースとしている。これならネットでなんでも検索する若い世代も入り込みやすいし、逆にそういうビギナーを囲い込むこみたいのだろう。



山でかわいがられた「若者登山者」

話を登山者年齢層の実態に戻そう。これら若者向けの登山系ウェブサービスが充実してきているということはやはり登山人口のなかで若者比率は増えてきているということだろうか。

少し昔の話をしたい。僕が登山を始めたのは2006年の春くらいである。つい最近の話だと思っていたらもう14年も経ってしまった。最近とは言い難い年月である。

あの頃は山に行くといつもいつも中高年登山者ばかりがいたように思う。中高年の団体を道で追い抜くときには必ず「特急列車が来たよー」なんていうオバちゃんの何とも言えない掛け声が入ったものだ。若い子が山に登っているというだけで何故が褒められ、お菓子を貰ったりすることもしばしば。なんか親戚の集まりに来た数少ない子供のような特別扱いを受けたものだ。

学生だから夏休み以外は土日や三連休に登っていたので、平日だからリタイア層が多いというわけでもなさそうだった。平日であろうが土日だろうが山は中高年がある程度同じ数いた印象だ。



山で若い人が急に増えた日のこと

そんななか、僕の中でいきなり山の印象が変わった日があった。2009年の7月、北岳に行ったとき、広河原の登山口で感じた異変は今でもよく覚えている。あれっ?なんか若い人多いし、オシャレな人多いな。というものだった。

その翌年、僕は社会人一年目になったわけだが、9月に穂高に行ったときのこともよく覚えている。横尾で溢れる若い人たち。しかもなんかみんなオシャレだ。なんだかチャラい印象すらあっま。なんだこれは?と思ったものだ。

若いと言ってもおそらく学生ではなく、アラサーくらいの社会人風の人たちだった。それでも中高年と比べたらずっと若者だ。中高年の数が減ったわけでは無いが、若者の増加は目立った。僕が知らない間にどうやら若者たちが山に向かうようになっていた。

なんでかな?と思い考えてみると、色々思い当たる節もある。そしてそれらが複合的に噛み合わさって若者は山に向かい始めたのではないだろうか。



全く新しい山雑誌PEAKSの出現

まずは雑誌PEAKSの創刊だ。2009年に創刊したPEAKSだったが、登山用品店に置いてあったそれをサークルの溜まり場に誰かが持ち出し、なんだこのチャラい登山雑誌は?と思った記憶がある。※1正直僕らみたいなひねくれた学生には響かなかった。

それもそのはずで、PEAKSがターゲットにしたのは30代なのだ。いわゆるアラサー世代。学生時代から登山をやってたわけではなく、ネットなどで検索しながら独学で登山を始める層を狙っていた。これについては元初代PEAKS副編集長の森山憲一さんのブログに詳しく書いてある。※2


※1 最初ピークスはフリーペーパーだったと書いてしまったが僕の記憶違いで、フリーペーパーはフィールドライフでした。

※2 森山憲一さんは当時副編集長とのことです。ご本人からご指摘いただきました。訂正してお詫び申し上げます。



ランドネの山ガール革命

同時に生まれたのがランドネというPEAKSの姉妹誌である。こちらのほうが登山業界的には革命をもたらした様な気がする。ランドネはまさに山ガールのための雑誌だった。

そう、山ガールなのだ。山に若者が増えた理由として、山ガールの流行は絶対にあると思うのだ。じゃあその山ガールはどこから来たのだろうか?僕は2010年前後が山ガールブームのピークだと思っていて、それらはPEAKS、ランドネ、GO OUTなど、アウトドア系雑誌の創刊時期と重なる。

特にランドネは女子向けで非常にファッション性が高く、山で女性がオシャレをするという今までではあまり考えにくかった事を一般化してきた。その象徴的なアイテムが山スカートであり、その仕掛け人が四角友理さんであった。男だらけの汚い世界という印象がある登山業界に四角さんのような方が現れ、若い女性が山に行きやすくなった。



アウトドアファッションの一般定着

GO OUTというアウトドア系ファッション誌の創刊も2007年頃らしい。この頃からアウトドアウェアは大衆的なアパレルとして広く認知されてきたように思う。登山をする人と、ファッションに敏感な人以外知らなかったマニアックな服の世界が徐々に解放されてきた。

野外音楽祭、いわゆる野フェスでもアウトドアファッションに身を包むのが良しとされ、登山やキャンプをしない人もファッションやライフスタイルとしてアウトドアを取り入れる傾向が出てきている。そんな背景の中でGO OUTは創刊されたと推察する。



登山ウェアがダサくなくなった

アパレル業界の流れは僕は全く分からない。誰か仕掛け人がいて、それに呼応してメーカーが力を入れていくのか、先にメーカーがトレンドを作り出すのか。とにかく僕が言えるのは2008年あたりから登山用のウェアが急にカッコよくなっていったということだ。逆に言えばそれ以前はダサ過ぎた。特に雨具、今風に言えばレインウェアである。僕が登山用品を買い揃えた2006年はレインウェアは上下同色、フラップもベルクロで止めるのではなくボタンがついててダサいものが多かった。雨具を着るとみんな何とかレンジャーみたいに全身赤とか黄色に身を包むのだ。当時上下色が違うものを出していたのはモンベルくらいだった気がする。それが2008年あたりから変わってきた。

この頃、メーカーも市場拡大を狙い、今まで登山ウェアとして発売していた製品をアウトドアアパレルとしてライトなユーザーをターゲットに入れ始めたということかもしれない。それにともない、ランドネのように登山専門でありながらファッションに妥協しないスタイルの雑誌が生まれた。あくまで僕の印象だが。



若者ライフスタイルの変化の結果として生まれたPEAKS

ファッションの変化からわかるように、2000年代後半には30歳前後の世代でアウトドア志向のライフスタイルが生まれようとしていたとも言える。このライフスタイルは生活の価値観とも言い換えられる。

実はPEAKSとランドネを発行している枻出版社(エイ出版社)は元々登山の畑にはいなかった。興味深いことに同社はいわゆるライフスタイル雑誌を多く発行しており、それらは今も続いている。

雑誌は世代ごとにターゲットをすごく意識するので、トレンドにも非常に敏感なのだろう。30代のライフスタイルの変化に対して、「登山」という切り口で対応してきたのが枻出版社だった。そう考えると山と溪谷社や当時『岳人』を発行していた東京新聞出版とは全く異なる成り立ちなのだ。

ヤマケイや岳人は明治以降、日本のアルピニズムが生まれてからそれを綿々と受け継ぐ者へと向けられていた。しかしPEAKSは現代日本のライフスタイルの変化の結果として生まれた。その題材が「登山」だっただけだった…と言うのは言い過ぎかもしれないが、扱っているロールモデルも岳人とPEAKSではまるで違った。そう考えるとPEAKSは登山雑誌というより、ライフスタイル雑誌なのかもしれない。



価値観の変化は晩婚化を生んだ

ライフスタイルの変化はなぜ登山へと向かわせたのだろうか。そこで僕も少しだけ調べてみた。

まずひとつ関係ありそうなのが晩婚化だろう。総務省の国勢調査では2015年に30歳〜34歳の未婚率は男性で47.1%、女性で34.6%となっている。ちなみに1970年は男性が11.7%、女性で7.2%である。

晩婚化が進んだ原因は諸説あるとは思うが、多様な生き方が出来るようになったことが要因のひとつだろう。多様な価値観が生まれ、社会から認められるようになり、ライフスタイルも多様化したのだ。金銭的な理由もあるのかもしれない。もしくは、まだ大人になりたくないというモラトリアムの延長を望んでいるのかもしれない。

晩婚化すると仕事に就いてから自分で自由に使える時間とお金ができる。それを趣味に投資して自分の時間を楽しむのは独身者の特権であろう。まさに独身貴族だ。



独身アラサー世代にとって登山は親和性が高い

しかしなぜ登山を楽しむのか、という疑問がある。ひと昔前、つまりバブル期くらいであれば「遊び」と言えば異性交友やクルマなど、お金がかかるものが多かったし、趣味の数も今ほど多様ではなかった。

今は趣味も多様化し、一人で地味に楽しめる遊びを求める人も増えてきた。その一つが登山だったのだろう。趣味として聞こえも良いし、富士登山ブーム、アウトドアアパレルの流行も相まって、ハードルが下がっている登山に手を出す人が増えても不思議ではない。

登山は時間とお金をある程度持て余している人にもってこいの趣味で、それは中高年のみならず、独身アラサー世代にもドンピシャだったのかもしれない。

そうした若者のライフスタイルの変化、アウトドアアパレルの流行、それを嗅ぎ取った雑誌によって流行は拡散され、「山ガール」という象徴的な言葉によって2010年代前半に若者登山ブームが結実したと言えよう。



ブーム後の「ポスト山ガール」

でも果たしてそれで若い登山者の比率は増えたんだろうか。2020年はどうなっていくのだろうか。

2015年も過ぎると山ガールブームも下火になり、今度は単独登山女子なんていう言葉が生まれたりした。これは『山と食欲と私』という漫画がベースだ。ここに描かれている主人公こそ、「ポスト山ガール」と言うべき存在だ。一過性に過ぎなかった山ガールブームではあったが、確実にに何割かの人をそのまま登山の沼に沈めている。もちろん去った人もいるが、残っているからこそYAMAP等の新しいサービスも生まれている。

ライフスタイルも引き続き同じ路線を進んでいる。アウトドアファッションはどんどん市民権を得て、人々の服の選び方も合理的かつ、オシャレなものを選ぶようになっている。作業服大手のワークマンがアウトドアアパレルに参入して大成功したのは記憶に新しい。



山で本当に若者が増えているのか?

完全に主観的な感想になるが、確実に若者のアウトドア市場は出来ているし、拡大していると思う。それは2006年頃と比べものにならないくらいだ。

でも絶対数的にはどうだろう。僕の印象ではアラサー世代登山者数が50歳以上の中高年登山者数を上回ることはないだろう。なぜなら単純に人口比で高齢化がどんどん進んでいるからだ。これからも子育てがひと段落した中高年がどんどん登山を始めていくと思うし、いくら晩婚化、未婚率の上昇の世の中と言えども結婚して育児家庭となると登山からは一時離脱となる人は多いだろう。そうなると中高年が引き続き山を席巻するのは必然である。

それでも高尾山や陣馬山、雲取山など、東京近郊の山で若者は圧倒的に増えたと思う。それは実際に見ては思う。しかし、ピンポイントでの増加な気がしてならない。検索でポンと出てきたり、SNSや雑誌で紹介されるメジャーなピークには若者が多いが、ちょっと外れたピークや地方になると中高年の天国という感じがする。若い人がいても単独登山男子がいるかどうかだろう。



結局は高齢化に抗えない

話を整理すると、僕はヤマケイオンラインのアンケートの回答者年齢層はある程度リアルだと思っている。

もちろん現実は30歳代が1割なんて有り得ない。若者のアウトドア志向を持つようになったことや、枻出版社の仕掛けなどがあって、多くの若者が山へ向かうようになったのは確かなことだ。

だが元々の中高年登山ブームと、日本の人口の高齢化の影響の方が強く、若者の数がそれらを上回ることは無いと思う。総務省の推計では2060年には人口の4割が65歳以上の高齢者となるらしい。ただでさえ若者が少なくなっているなか、もともと中高年向きだった登山で高齢化が加速しないわけない。

長く書いてしまったが、僕の主観的な予想だと、若者は過去20年くらいで見ると増えている傾向にあるが、依然として登山者のなかで一番活発な世代は中高年、という結論だ。長々と書いた割になんだか当たり前のことを言っているだけな気がするw



おわり
2020年1月11日

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