2020年1月11日に更新した「登山は中高年のものから、若者のものへと変わったのか?」という記事が長すぎるので全6回に分割し、一部編集しました。
前回
若者ライフスタイルの変化の結果として生まれたPEAKS
ファッションの変化からわかるように、2000年代後半には30歳前後の世代でアウトドア志向のライフスタイルが生まれようとしていたとも言える。このライフスタイルは生活の価値観とも言い換えられる。
実はPEAKSとランドネを発行している枻出版社(エイ出版社)は元々登山の畑にはいなかった。興味深いことに同社はいわゆるライフスタイル雑誌を多く発行しており、それらは今も続いている。
雑誌は世代ごとにターゲットをすごく意識するので、トレンドにも非常に敏感なのだろう。30代のライフスタイルの変化に対して、「登山」という切り口で対応してきたのが枻出版社だった。そう考えると山と溪谷社や当時『岳人』を発行していた東京新聞出版とは全く異なる成り立ちなのだ。
ヤマケイや岳人は明治以降、日本のアルピニズムが生まれてからそれを綿々と受け継ぐ者へと向けられていた。しかしPEAKSは現代日本のライフスタイルの変化の結果として生まれた。その題材が「登山」だっただけだった…と言うのは言い過ぎかもしれないが、扱っているロールモデルも岳人とPEAKSではまるで違った。そう考えるとPEAKSは登山雑誌というより、ライフスタイル雑誌なのかもしれない。
価値観の変化は晩婚化を生んだ
ライフスタイルの変化はなぜ登山へと向かわせたのだろうか。そこで僕も少しだけ調べてみた。
まずひとつ関係ありそうなのが晩婚化だろう。総務省の国勢調査では2015年に30歳〜34歳の未婚率は男性で47.1%、女性で34.6%となっている。ちなみに1970年は男性が11.7%、女性で7.2%である。
晩婚化が進んだ原因は諸説あるとは思うが、多様な生き方が出来るようになったことが要因のひとつだろう。多様な価値観が生まれ、社会から認められるようになり、ライフスタイルも多様化したのだ。金銭的な理由もあるのかもしれない。もしくは、まだ大人になりたくないというモラトリアムの延長を望んでいるのかもしれない。
晩婚化すると仕事に就いてから自分で自由に使える時間とお金ができる。それを趣味に投資して自分の時間を楽しむのは独身者の特権であろう。まさに独身貴族だ。
独身アラサー世代と登山は親和性が高い
しかしなぜ登山を楽しむのか、という疑問がある。ひと昔前、つまりバブル期くらいであれば「遊び」と言えば異性交友やクルマなど、お金がかかるものが多かったし、趣味の数も今ほど多様ではなかった。
今は趣味も多様化し、一人で地味に楽しめる遊びを求める人も増えてきた。その一つが登山だったのだろう。趣味として聞こえも良いし、富士登山ブーム、アウトドアアパレルの流行も相まって、ハードルが下がっている登山に手を出す人が増えても不思議ではない。
登山は時間とお金をある程度持て余している人にもってこいの趣味で、それは中高年のみならず、独身アラサー世代にもドンピシャだったのかもしれない。
若者登山ブームの完成
若者、特にアラサー世代のライフスタイルの変化、アウトドアアパレルの流行、それを嗅ぎ取った雑誌によって流行は拡散され、「山ガール」という象徴的な言葉によって2010年代前半に若者登山ブームが結実したと言えよう。
ではその後〜現在2020年はどうなったのだろうか。
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