登山用品店の淘汰が始まって久しい。少し考察してみた。

注意: 全て僕個人の印象、感想である。ざっと事実確認はしているが、内容についての責任は全て僕が負うものである。



買収される登山業界

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近年、昔からの登山用品店の再編や閉店が相次いでいる。

大きな量販店でいうと、2019年4月、石井スポーツはヨドバシカメラに買収されてしまったことは記憶に新しい。買収ではないが、同じく登山用品販売大手の好日山荘では2017年に元大塚家具の役員が社長に就任している。ともにもはや経営のトップが生え抜きの山屋ではなくなっているのだ。好日山荘も昨年本格的なECサイト(GsMALL)を開設し、キャンプにも力を入れてかなり毛色を変えてきている。

キャンプといえば、スポーツ量販大手のアルペンが「アウトドアーズ」と称して本格的にアウトドア・キャンプ用品を取り扱い始めた。店員の登山の専門知識は高いとは言えないが、ソロキャンプ、ファミリーキャンプレベルのアウトドアライトユーザーの需要は十分に満たしている。

登山用品店から登山関係の出版業界に目を向けてみると、伝統ある山と溪谷社は2006年にインプレスホールディングスに買収されてる。最近の事例だと2020年12月エイ出版社の趣味雑誌事業がドリームインキュベータに買収され、登山雑誌PEAKSも経営母体が大きく変わってしまった。

とにかく、ここ最近登山用品店、登山業界では、昔ながらの登山家が経営する店がどんどん減っているのだ。近年伸びている市場の中で、もともと会社経営が専門とは言えないような登山関係企業が食い物にされているという印象を受ける。そこでさらに懸念されるのはより小さい登山の専門店である。これらもとうぜんながらヨドバシやアマゾンに押されていることは言うまでもない。



秀山荘閉店

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先日(2021年1月)、秀山荘が3月に閉店するという報が入った。秀山荘といえばコアな山屋や沢屋に人気の昔ながらのお店であった。関東の人間なら、池袋秀山荘の名で知っている人も多いだろう。その歴史は長く、1950年代にさかのぼる。その後ヤマノホールディングス(和装品等の企業)に吸収され、さらに2017年ライザップグループに。その間、池袋から新宿に移転、最後には埼玉県川越に移転になったが、2年足らずで完全閉店になってしまった。

秀山荘の閉店劇はひとつの悲劇ではあるが、このようなことが日本中の老舗登山用品店でいつ起きてもおかしくないのが現状であろう。ネームバリューがあった秀山荘ですら、変わりゆくアウトドア市場に追従することができず、挙句、様々な企業にたらい回しにされ、捨てられた。秀山荘以外では名古屋の駅前アルプスの経営者が昨今変わってしまった。

アウトドア市場が大きくなっているのは事実であるが、秀山荘のようなガチなお店の需要も大きくなっているかというと、そうではないのであって、だから潰れてしまったのだろう。昔ながらの層には需要はあったが、沢登りに強い秀山荘は古風な印象がありすぎてエントリー層から受け入れられなかったのだと思う。

沢登りが廃れているわけではないはずだ。しかし秀山荘では90年代沢ヤ装備のイメージが強すぎてファイントラック的シャワークライマー装備のイメージになれなかったのかもしれない。

これらは残酷で残念な話だが、ようするに流行りに乗れなかったのだろう。



変わりゆく老舗登山用品店

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老舗登山用品店でも東京のカモシカスポーツ、さかいやスポーツ、千葉のヨシキ&P2などは頑張っている。もともと学生や山岳会などの太い顧客を抱えているが、近年は雑誌でも露出も増え、山岳雑誌PEAKSでは常連のお店の印象だ。

PEAKSの読者層は登山歴ウン十年というよりも5年未満の感度の高い20~40代が中心になっていると想像する。ここのユーザーにハマるお店でないとただの老舗のイケてない店になってしまうのだろう。エントリー層にも門戸開き、かつ的確にレベルアップを助けてくれるようなお店であるような印象をユーザーに与えないといけないわけだが、カモシカ等のお店は確実にそれを意識した戦略に切り替えていると感じる。

首都圏ではないが、大分の山渓はECにかなり力を入れているし、北海道の秀岳荘は地の利もあってか、セイコーマート並みに地域に根付いている。地域密着といえば静岡のSWENもそうだろう。



勢いのある新興セレクトショップ型

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同時に、アウトドアのセレクトショップは増加傾向にある気がする。

ここ数年、十年?のULブームやトレランブームがひとつのカルチャーとなり、定着している。お洒落で最先端のこだわりがあるお店は、影響力のある顧客を持っており、決して大きいお店にはならないが、確実に太くなっているように見える。

僕はこの界隈には詳しくないが、今や誰もが知っている東京三鷹のハイカーズデポはまさにその代表で、そのタイプのお店が全国津々浦々、探せば結構ある。SNSを駆使して情報を発信し常に感度の高い顧客と親密な関係を気づき、さらにそれに影響されたユーザーが新たな顧客となっていく。まさにインフルエンサーである。

とは言え、いつの時代も登山用品店とは最初はセレクトショップであり、「こんなお店があったらいいな」という思いで創始されてきたはず。それが登山者の間で口コミになり、広まってきたはずなのだ。しかし今やそういうお店が既に老舗になっている。現在ある老舗と新興店舗との差は何なのだろう。



「店名」から「人」で選ばれる時代

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インフルエンサーとなるようなお店でないと生き残るのが難しいのは今も昔も変わらないのであれば、結局SNS時代の流行に合わせられるかどうかがすべてなのかもしれない。いくら店内には雪山登山から沢登りまでできる用具が揃っていても、それらがECサイトでも手に入るものであったり、もはやネット上の説明だけで済むようなありふれた商品であったら、実店舗は用済みになってしまう。

置いてある商品は見たこともない最新のものだったり、カッコいいものでないといけない。また、スタッフさんは雑誌やSNSに登場するような有名人であるほうがいい。「あの店には名物のあの人がいる」というクチコミが客を惹きつける要素になる。登山雑誌PEAKSでも登山用品店のスタッフが頻繁に取材されているし、SNSで「個」で発信ができるこの時代、この傾向は今後もっと強くなる気がする。かつての渋谷109のカリスマ店員みたいなものだろうか。

そのような特別な個人が仕入れた商品であったり、ネットからでは得られない生の声や体験を味わえるような店舗を、現代の感度の高いユーザーは求めているのではないだろうか。ガレージブランド直営店なんかもこの類に入る。お店がいわばプレミアムな顧客のためのコンシェルジュのような存在になれたら理想なのではないだろうか。



二極化する登山用品店、そしてモンベル

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一方、従来の量販店はライトユーザーやエントリー層を受け入れるために必要になっていくる。これは登山用品店に限った話ではないのかもしれない。

アウトドア市場が大きくなっているといっても、ユーザー層のピラミッドでいうと下側が大きくなって、裾野が大きい富士山のようになっている状態だ。

このような量販店と競合するのはアマゾンだろう。しかし、たいていのものはアマゾンで買えてしまう現代社会とはいえ、初心者がいきなり実物を見ないでネット通販で道具を全てそろえるのはややハードルが高いように思える。そのためにも浅く広くカバーするような量販店は必要になっていくるのだ。実店舗でアマゾンと戦うのはもはや登山の小規模専門店では力不足で、スポーツ量販店や家電大手、ワークマン、またはフランスのデカトロンのような海外大手なのである。

そういう「巨大なマーケットで戦う大手」と「ニッチな流行を追う個人店」という二極化構図が現在の登山用品店業界の構図と思えるし、それは今後一層深化するのかもしれない。

そんな中、唯一と言ってもいい例外はモンベルで、この二つの要素を持ち合わせている登山系企業といえるだろう。そう考えるとモンベルは本当にすごいと思う。登山家のスピリットを持ちながらも時代に取り残されず、流行に乗り影響力を持ち続けている。

二極化&モンベルという構図、そしてアマゾン。この流れが今後しばらく続くのかどうか、は僕はわからない。



おわり
2021年1月24日

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