累計遭難死者800名以上、死者数世界一でギネスワースト記録保持…ということで「魔の山」と呼ばれてしまっている谷川岳の悲哀について書いてみる。


K2と谷川岳を比較して盛り上がる皆さん

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今年2021年1月、冬季K2が人類史上初めて登頂されたことは記憶に新しい。そこで話題になったのがK2という山の難易度だ。

K2ってどんな山?エベレストより難しいの?すごいことなの?という話になりがちになる。

ライター 森山憲一さんの記事(Number Web)によるとこうだ
一方で死亡率(死亡者数/登頂者数)は高く、これまでの統計によれば23%ほどにものぼる。ほかの多くの8000m峰では10%以下であるのに対して、K2での死亡率は際だって高い。「最難の8000m峰」といわれるゆえんは数字でも裏付けられている。
出典記事:

世界第2位の高峰K2の登頂者の死亡率はなんと23%で、ざっと4人に1人は亡くなるという驚異的な難易度ということが世間に知らしめられた。エベレストですらおよそ1%程度らしい。


これを聞くと、だいたいの人はK2のヤバさがわかる。ここまではいい。だが問題はこの次、じゃあ世界で一番死者が多い山ってどこだろう?みたいな話になるのを僕はここ最近ネット上で見聞きしてしまった。

で、オチとして登場するのが谷川岳さんである。

そしてお決まりのリアクションとして、ヤベー、まさかの日本だったか〜!K2より死んでるやんけ〜!!って盛り上がって、これでおしまい……。

いや、ちょっと待てやオラァ!!



谷川岳でなぜそんなに死亡者が増えたのか

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ここで谷川岳の汚名を晴らしたいと思う。谷川岳は悲しいことにあのWikipediaにすらこう書いてある。
谷川岳は初級者から上級者向までの変化に富む登山コースを有し[2]土合駅からのアクセスがよく取り付きまでに要する時間がさほど長くかからない位置にあり複数のルートが開拓されたため[1]、年間4万人を越える登山者が訪れる[2]。危険個所の多さと急激な気候変化が影響し、遭難者の多い山としても知られる[2]
これ普通に読むと谷川岳は遭難者の大きい危険な山という認識になりかねない。さらに谷川岳の遭難死者数は2012年までに805名となっており、この数は世界ワースト1位なのである。登山をやらない人からしたら谷川岳に登る=自殺行為みたいに思われる可能性すらある。

この汚名は誤解である。たしかに800人以上死人を出したのは事実だ。しかしそれはほとんど一ノ倉沢というクライミングのエリアでのことだ。谷川岳は北アルプス穂高岳、剱岳と並んで日本三大岩場なのだ。

しかもその死者数を叩き出したのは1940年代〜60年代のまだ装備、技術が未熟な頃に大量のクライマーが未踏のルートを目指したからであろう。国鉄が谷川岳の麓まで延伸しアクセスが抜群に良くなり、「近くていい山」として喧伝された時期である。しかも戦中戦後という時代は今より遥かに命知らずな若者が沢山いたのだ。

現在谷川岳を訪れる殆どの人(年間4万人ほどだそうだ)はほとんどが一般ルートからの登頂だろう。命の危険を感じる箇所など無いに等しい。

言うほど全然怖くないよ谷川岳。これをK2なんかと比較されてはたまったものではない。



ちゃんと統計を読みとればわかるK2のヤバさ

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そもそも統計の見方がおかしい。エベレストやK2をはじめとするヒマラヤの高峰の死亡率は登頂をした人のうち何人死亡したかで計算している。


同じように谷川岳を死亡者数ではなく死亡数/登頂者数=死亡率でみると恐ろしく低くほぼゼロ思われる。

なぜなら下山中に死亡するような山ではないから。今までの累計はデータがないが、群馬県警のデータによると平成30年度で谷川連峰の死者数は1名なので、単純計算で年間3万人登頂しているとしても、死者数/全登山者の数死亡率ですらおよそ0.003%である。

しかも、K2は極限までトレーニングを行い、経験を十分に積み、最新の装備と情報を持った者だけが挑んでいるので母集団の質が違う。そういう人たちが登頂成功までさせたにもかかわらず、死亡率23%、4人に1人が生きて下山できない山なのである。

K2の総死亡者数(山頂に至らず亡くなった人を含めた数)がいくつなのかわからないが、おそらく死者数/チャレンジ数で見ればかなり高い率になり、「魔の山」の称号に相応しいのは間違いなくK2だろう。

ということで、K2の引き合いに谷川岳出すのはちょっと変だよという話、そしてそんなヤバいK2に冬季に登ったのはもっとヤバいという話でした。



おわり
2021年1月28日

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