大分県の老舗「山渓」の破産

かつて高潮にノリに乗っていたキャンプブームが目に見えて引き潮になっているようだ。

2025年3月27日、大分の老舗アウトドア用品店「山渓」が破産とのニュースが飛び込んできた。ヤフコメを見ると一定数の人が「山と溪谷社」と混同しているようだが出版社とは全く別の大分県にあるショップである。


2021年に私は「潰れる店と残る店」と称して登山業界のこれからについて記事を書いたことがある。

このとき、山渓にも言及しており、EC(イーコマース)に強い山渓は生き残っているとしていた。当時潰れていた昔ながらの登山用品店は街の駄菓子屋のような経営のお店であって、大分でいかに来客が少なかろうともECが強ければ生き残ってけるのではないかと考えていた。しかしどうやらそんな甘くは無いようだ。


キャンプブームの終焉

2024年2月にはスノーピークの減益を受けて、キャンプブームはかなり落ち着いてしまったのではないかと考えた。


コロナ禍が終わり、キャンプに投資していた層が別の娯楽に移ってしまったということだ。キャンプ、特にファミリーキャンプは道具が高い割に継続して使うハード層が少なく、人生のステージの中で一過的なものだ。子供とキャンプなどと考えていた親も、子供が大きくなってついて来てくれなくなれば自然と行かなくなる。

キャンプ市場が危ういということについて、株式会社スクロール(アウトドア用品EC大手のナチュラムの親会社)が決算報告にこんなこと書いている。(株式会社スクロール 2024年3月期 決算説明より)
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山渓はなぜ潰れてしまったのか

ここで山渓の話に戻ろう。山渓はなぜ潰れてしまったのだろうか。

Yahoo!ニュースで気になったのは報じ方が山渓を「アウトドア専門店」としていたことだ。私としては「登山のお店」だが、ECをやるうちに、そしてキャンプブームの中でキャンプ用品にも大きく手を出していたと想像する。そうなると登山とキャンプを一緒にして「アウトドア専門店」となるのだ。このキャンプに手を出したことがやはりまずかったのではないだろうか。

またECに特化していたのも良くなかったと思われる。いくら通販で全国に販路を広げていても楽天ショップだと楽天への上納金や他のショップとの価格競争、負担しないといけないのに上がっていく送料など、その実情はかなり薄利だったと推測される。特に大分からの発送だと送料は高くなったと思われる。そこで売り上げが低迷してしまうと資金繰りが難しくなるというところだろうか。

登山小売店は増えている印象

一方で小売の登山用品店でローカルショップは増えている印象がある。これは「潰れる店と残る店」でも言及している。SNSの発達によってネットをうまく活用して「人の魅力「お店の魅力」を全面に出して顧客を掴んでいるのだ。また、「キャンプブームの終焉」でも言及したが、キャンプと違い登山は「体験消費」型のアクティビティだ。キャンプは「モノ消費」で道具を買ったらもうそれで終わりで、いわゆる「中毒性」にかける。(ソロキャンプは登山よりかもしれないが)。それゆえにキャンプとは別に根強い活動層が一定数市場に常にいる。

「アウトドア市場」という幻想

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これは再現性があって、90年代のバブル後の「でもしかアウトドア」と同じ状況だ。90年代不況になってしまって従来のお金のかかる旅行ができなくなった人々が「アウトドアでもやるか、アウトドアしかないか」と言って始めたキャンプブームがある。コロナ禍でのブームも結局蓋を開けてみればそれと同じだったわけだ。

これには実は私は違和感があって、市場を分析する企業のマーケターの立場の人間がひとつ間違いをおかしているのだ。それはアウトドア市場の中にキャンプと登山を入れていることが間違いということだ。ナチュラムの売上分析でもアウトドア・キャンプ市場が縮小とあるが、市場を分析するならキャンプと登山を分けて考えないといけない。キャンプは売上が大きいが波が大きい。登山はそこまで大きくないが浮き沈みが少ない。それはなぜかというと登山をやる人はほとんどキャンプをやらず、キャンプをやる人はほとんど登山をやらないのだ。例えるならバイク市場と乗用車市場を一緒にしてマーケティングしているようなものだ。ターゲットが違うのだからその見方では本質が見えてこない。

だからアウトドア専門店でもキャンプに比重高い店は危うくなり、登山に比重が高い店は続けいるというわけだ。登山のお店だっとところが「ブームも来てるしうちもキャンプを拡充しよう!」なんてことをすると大きな揺り戻しが来るということだ。

「アウトドア市場」なんていうものはなく、あるのは「ファミリー(グループ)キャンプ市場」と「登山市場」だ。これらを正しく分析しないとこれからさらに業界内の明暗が別れてきそうだ。


おわり
2025年3月28日

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