
2015年のゴールデンウィーク(GW)に北アルプスの白馬岳(しろうまだけ)に挑んで敗退した際の記録です。実は白馬から親不知への縦走をもくろんでいたんですが…。過去の山行ですので、当時の記録の文章をほぼ原文から書き起こしてみました。
登山日程
2015年4月30日~5月1日(山中1泊) 5月2日(唐松岳日帰り)
メンバー
JJ、ジョア(僕)の男2人
交通手段
公共交通
往路:JR長野駅まで新幹線。長野駅からバスで栂池高原行のバス
復路:白馬八方バスターミナルから新宿行きのバス
登山形態
テント泊縦走(残雪期)
ルート
DAY1・・・ゴンドラてっぺん(10時50分着)~白馬大池(14時30分着)幕営。
DAY2・・・起床から11時30分まで待機、下山…(敗退)
DAY3・・・唐松岳日帰りに転進
装備
冬山装備一式(ピッケル、アイゼン、ストック)
アプローチ詳細
始発で6時22分上野駅発の北陸新幹線かがやきに乗り込みました。全車両指定席ということを知らずに乗り込み、指定席券を買うはめに。今考えれば立ち席指定でも良かったと思いますが…。ひと眠りであっという間に長野駅に到着。かつて僕たちが目指した長野はもっと遠かったはず…。
長野駅で同行者のJJと合流しました。彼はやたら「いくぜ東北!」の松岡茉優を気に入っており、栂池高原までのバスの中では松岡茉優画像検索にふけっており、きもかった…。
ところで、長野から栂池高原への始発バスは8時20分だったのでこんなに早い新幹線に乗る必要はなかったんですが…。
水場情報
栂池のスキー場で汲みましょう。ルート詳細:DAY1 (晴のち雪)

ゴンドラ、リフトを乗り継いで、てっぺんについたのが10時50分くらいでした。
遭難対策協議会のおじさんたちの有難いお話(注意事項説明)でまあまあ脅されました。雪は少ないし、天気はこのあと荒れるとのこと。知っていました…。こんな装備で大丈夫か?
装備、今回は軽量化ということで13.7kgくらいです。二人分の五日分の食糧とテント込み装備としては結構しぼれているのではないでしょうか。そもそも今回は親不知までの縦走予定でしたから(笑)ヤバいかなあと思いつつも、「たくさん持っていくと冒険性が失われてしまうから」という山野井さんの言葉に従いました。これは冒険なのです。

11時ごろ、登山開始。
天気も良く、風も無いスタートでした。

天狗原あたりから風が出てきました。このあたりはスノーボーダーも多かったです。
ちなみに、今回の食糧は『外道クライマー』に触発されて限界で設定し、マッシュポテトを山で初導入しました。JJに「今回のメシはマッシュポテトメインでそこにスープの粉をかけるだけだよ」と言うと「ザッツオールですか!?」とかなり落胆の様子でした。この男、メシへの執着がすごい。「あの甘納豆(家に)置いてこなければよかったな…」などとぶつぶつ言いながら歩いています。

乗鞍の登りの終盤で風が強くなってきました。そこから先はもうクソです。
気温はそこまで低くないですが、強風で体力を奪われます。トレースも微妙で、白馬大池までのゴーロを雪を踏みぬきながら歩きました。風はまるで「無呼吸連打」のように容赦なく体中に浴びせてくるようで、時折弱まった時に進むという感じでした。

白馬大池です。

14時30分ごろ、白馬大池小屋に着きました。小屋はほとんど雪で埋もれており、屋根が少し出ている程度です。当然大池も真っ白です。風は相変わらず激しく、テントを張る場所の選定に難儀しました。わずかな良い場所はすでにテントが張られており、悩んだ挙句、小屋の隙間ではなく、壁際を掘りつつ、雪壁を作って張ることにしました。頑張って壁を作ったものの、いざテントを広げるとまだまだ風があたり、テントが暴れます。発狂寸前です。
壁を増築し、なんとか張り終えました。
テント内は真冬と比べると格段にあったかいのですが、雪がすぐに解けるため、衣類、装備が濡れがちになります。フリースを着こみ、行動食のおやつを食べるとあとは体力温存につとめます。まるで避難生活。いや、もっとヒドい。何故僕らはゴールデンウィークの大型連休にわざわざ男二人で狭いテントの中で暴風雪の中、過ごさなければいけないのでろう??

昼寝をして結構寝たと思ってぼんやり時計を見ると18時。そして夕飯に美味しいパスタを作りました。実は食糧はマッシュポテトだけではなかったのです。「早ゆでパスタクルル」と「ぺペロンチーノの素」です。中華スープも飲んで贅を極めました。明日は敗退する可能性が大なので、食料も出し惜しみは止めようということだったと思います。
外は風が半端なく強いです。
食事が終わり、就寝。夜、目が覚めて、だいぶ寝たかなと思っておそるおそる時計を見ると20時56分…「おいおい先が思いやられるぜ」と思いつつ、また寝る…。何回か目が覚める…。雷も鳴っていました。絶望的な夜でした。
ルート詳細:DAY2(暴風雪)

昨夜中に降った雪がテントを圧迫し、その重みが体を押してくるので、目が覚めました。
天気は相変わらずですが、日が昇りました。JJの持ってきたラジオを聴くと、NHKのアナウンサーが「5月1日の誕生花はすずらんです。すずらんの花言葉は『希望と純愛』です」と抜かしておりました。こちとら、希望もクソもないんじゃ。
天気は良くなる気配がありません。予報では昼過ぎに回復するということなので、そのあと行動を開始することに。とりあえずテントで待機です。
エスパースマキシムXは防水透湿素材を使用したシングルウォールテントです。軽量化、居住性と風雨を防ぐ力など、総合的に考えると最強のテントだと思います。オールシーズン使用可能です。

9時過ぎに晴れ間がたまに見えるようになったような気がしたのでメシを食うことにしました。

メシはマッシュポテトです。最初難色を示していたJJも気に入ったようで良かったです。


メシを食った後、テントを撤収し、出発の刻を伺いましたが、なかなか訪れません。
我慢の連続で、JJはNASAの銀マットにくるまったままビバークしている人のように動きません。かと思ったら白馬大池のほうまで銀マにくるまりながら彷徨しながら歩いたりしています。
発狂してしまったのでしょうか?
Grabber(グラバー)
これは高級銀マです。1000円ぽっちの銀マットとはわけが違います。しかし非常に丈夫だし、質感も良いし、大きい。四方にハト目が付いているのでタ―プとしても使用可能。なによりNASA開発素材なので、熱を輻射しやすい気がします。一家に一枚いかかですか?
これは高級銀マです。1000円ぽっちの銀マットとはわけが違います。しかし非常に丈夫だし、質感も良いし、大きい。四方にハト目が付いているのでタ―プとしても使用可能。なによりNASA開発素材なので、熱を輻射しやすい気がします。一家に一枚いかかですか?

僕は迷っていました。先へは行きたいが、この風雪が止まないとこの先のルートは厳しいのは自明です。戻るか、停滞か…。停滞はきつい。結論は明白でした。もう二人にテントでこの環境でもう一泊する余裕はありませんでした。それは冒険からの敗退でした。
そのとき、ちょうど一人の登山者が小蓮華岳から戻ってきて、「小蓮華から先は怖くて」という貴重なご感想を聴きまして。その人は僕たちからみたら勇者であり、見た目も強そうな単独行者だったんですが、そんな人でも怖いのならもう僕らは無理でしょという空気がいっきに流れ込み、モチベーションは地に付いたのでした。
我々の他にも一人待機で粘っている人がいたんですが、僕らはその人より先に下山を始めることにしました。

しかし下山も一筋縄にはいかず、大池を渡り、ゴーロの登り、白馬乗鞍岳への登りに入ると風はより一層強くなりました。まるで四方八方からどつかれているような感じです。歩こうとして片足をあげるとすぐにバランスを崩してしまいます。乗鞍の山頂を過ぎると横風から追い風になりましたが、それでもバランスがとりにくいので、向かい風だったらと思うと、さぞ歩くのが困難になっていたことでしょう…。
天狗原に降りてしまえば風は弱くなりました。下降途中にテントを一張りみかけましたが、明日はどうするのだろうと思いながら、僕らは天狗原へ駆け降りました。強風の猛威から解放されて二人で安堵しました。
シリセードなどをして、ゴンドラ乗り場へ行ったものの、ゴンドラが強風で運転できず!
同じタイミングで降りてきた単独の人は文明の利器を使わずに歩いておりてしまったが、僕らは当然のごとく乗り場に入ったものの、係のお兄ちゃんが「(風速)25m、ダメです」「もう乗っちゃってる?」「二人?」などと無線でやりとりしております。これはダメっぽいな…ということで、「ダメそうなら歩いて降りるんで…」と我々は乗り場をあとにしました。しかし改めて地図を見るとけっこう距離あるし、早くも後悔が…しかし山ヤのプライドで乗り場に後戻りはできませんでした…。
下のゴンドラは強風ですがなんとか動いており、係の人も撤収するようで相乗りでした。係の人はお兄さんでしたが、女の子が良かったですね。でもきっと係のお兄ちゃんも同じこと考えてるでしょうね。
ゴンドラ中間駅からはマイクロバスで下まで送ってくれることに。もはやこれは救助されているような状況。自力では無理な移動を機械や他人の力を借りるのは皆救助ではないのと。じゃあタクシーも救助ではないのかと。山で起こることだけが救助ではないのです…などと思っていました。
栂池温泉で汗を流すと、ぎりぎりで白馬八方行きのバスに乗りました。
明日は晴れなので(ヤマテン情報)、唐松岳に転進することにしたのです。ピークを踏めずに帰れません。
遠見尾根から五竜岳にいけないことも無かったのですが、もう一回テントを担ぎ上げる気力が無かったのと、一日で終わりにしたかったのと…とにかく一度降りてしまってモチベーションがうんこになってしまったのです。
八方では宿をとるかどうか少し議論しましたが、インフォメーションセンター前でテントを張ることに。
インフォメーションセンター前のベンチでビールを飲みながらウインナーをバーナーであぶり、飲み会を実施。二次会として、㐂八という居酒屋へ。くさそうな男二人でしたが入店を許してもらえました。刺身が富山県のもので美味しかったです。アラとホウボウ、ホタルイカの沖漬など…。酒は白馬錦と大信州。酔わせてもらいました。
JJは開放的な男なので銀マにシュラフのみで寝ていました。僕はテントにもぐりこんで就寝。
ルート詳細:DAY3(番外編 唐松岳 晴れ)

5時半くらいに起床し、テントを早々に撤収、インフォメーションセンター前でマッシュポテトを作り、朝食としました。
7時半ごろにゴンドラ乗り場前に行くと、もう行列になっていました。スキー客が7割くらいでしょうか。インフォメーションセンターは閑散としていたので気づきませんでしたが、皆さんほとんど車で来ているようです。JJはリフトのお姉さんをエロい眼差しで見ています…。

8時45分くらい登り始め。人がいっぱいです。

鹿島槍ヶ岳。

白馬三山。

不帰の嶮。

唐松岳山頂。

劔岳。

山頂です。
そして…
14時50分リフト駅着
15時20分ゴンドラ駅着、八方の湯に入り、そのまま17時15分のバスタ新宿行きバスに乗り、旅の終了となりました。
関連記事:公共交通利用登山のススメ。
総括
苦い思い出となってしまった白馬敗退記。しかしながら、かつてゴールデンウィークに白馬では大量遭難死事件が起きているくらいなので無理をしないのは正解だと思っています。暴風と降雪のテント泊を楽しめただけでも良かったとしましょう。唐松では晴れたのでほんと良かったです。しかし、同じ時期の同じ山域でも天気が違うとここまで肉体へのダメージが変わるかというのを思い知らされた山行でした。GWは春山とはいえ、夏のような日差しもあるし、冬のような風と雪もあります。くれぐれも冷静な判断が必要になりますので、マネしないでくださいね。
コメント